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登録/更新年月日:2026年1月28日
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| 1.予測困難な社会を生き抜く「未来を拓く力」の定義 現代社会は、予測不可能な変化や複雑な課題に直面しており、子どもたちがこれからの社会を持続可能なものとしていくためには、知識の習得だけでなく、非認知能力の育成が不可欠である。国立青少年教育振興機構は、変化の激しい社会に求められる力として「へこたれない力」、「意欲」、「コミュニケーション力」、「自己肯定感」からなる「社会を生き抜く力」を提唱している。また、経済産業省が示す「人生100年時代の社会人基礎力」においても、前に踏み出す力やチームで働く力が重要視されている。 本稿においては、これらの能力を包含し、困難な状況に直面してもあきらめず、前向きに取り組むレジリエンス(精神的回復力)を「へこたれない力」と捉え、これを次代を担う子どもたちに最も必要な「未来を拓く力」と定義する。 こうした資質・能力を育むためには、意図的・計画的な体験活動が有効である。特に、親元を離れ、異なる生活環境の中で仲間と協力して課題を乗り越える長期自然体験活動(キャンプ等)は、対人関係能力や自立心を高める効果が高いとされる。先行研究では、2泊や3泊の活動と比較して、4泊5日以上の長期活動において「生きる力」の育成により高い効果が見られることが示唆されている。長期の活動では、一時的な非日常体験にとどまらず、継続的な人間関係の調整や自己規律が求められるため、より深い教育的効果が期待できるのである。 |
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| (参考文献) ・国立青少年教育振興機構「子供の頃の体験がはぐくむ力とその成果に関する調査研究」2018年 ・山川晃「自然体験活動が参加者の「生きる力」に与える影響−メタ分析による検討−」『野外教育研究』第22巻第2号、2019年 ・経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力について」2018年 |
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| 2.長期自然体験活動の評価と短期的変容の事例 長期自然体験活動の教育効果を客観的に測定する手法として、「IKR評定用紙(簡易版)」などを用いた量的調査が挙げられる。これは、活動前後での「生きる力(意欲、対人関係、自己肯定感など)」の変容を数値化するものである。 具体的な事例として、平成24(2012)年度に国立那須甲子青少年自然の家が実施した「福島復興支援事業なすかしドリームプロジェクト」の結果を取り上げる。本事業は、東日本大震災後の福島の子どもたちを対象に、14泊15日という長期間にわたり実施された。プログラムは、防災・放射能学習に加え、那須甲子連山縦走登山や100kmウォークといった、小学生にとっては極めて負荷の高い課題解決型の活動で構成された。 当該事業における調査結果では、「生きる力」の平均値が事前調査から事後調査にかけて17.5ポイント向上し、「心理的社会的能力」も10.0ポイント向上するなど、統計的に有意な向上が確認された。参加者は当初「絶対無理だ」と感じる高いハードルに対し、仲間と協力して達成することで強烈な「達成感」を得る。その成功体験が「自分はできる」という「自己肯定感」へと昇華され、「やればできる」という「へこたれない力」の獲得につながったと考えられる。 一方で、事業終了後の追跡調査では数値の低下も見られる場合がある。これは日常生活への回帰に伴う一般的な傾向(いわゆるリバウンド現象)であるが、長期体験で得た力が一過性のもので終わらないか、長期的な視点での検証が必要となる。 |
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| (参考文献) ・橘直隆、平野吉直、関根章文「長期キャンプが小中学生の生きる力に及ぼす影響」『野外教育研究』第6巻第2号、2003年 ・国立青少年教育振興機構『「生きる力」の測定・分析ツール 〜アンケート用紙・分析ソフト付き〜[平成22年度]』国立青少年教育振興機構、2010年 ・文部科学省『文部科学白書2012』日経印刷、2013年 |
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| 3.11年間の追跡調査に見る効果の持続性と強化 長期自然体験活動の真価は、活動直後の変容だけでなく、その後の人生にいかに影響を与え続けるかにある。前述の事例において、事業終了後から令和5(2023)年度までの11年間にわたり実施された追跡調査(質的調査含む)の結果は、効果の持続性について重要な示唆を与えている。 調査結果からは、参加者が小学生から社会人へと成長する過程で、進路選択や人間関係の悩み、さらにはコロナ禍といった社会的困難に直面しながらも、かつての体験を糧に前向きに乗り越えている姿が明らかになった。具体的には、「100km歩ききった自信が勇気となり、新しい環境にもすぐ馴染めた」、「困難な仕事でもプレッシャーに耐えられる精神力が身についた」といった記述が見られ、「へこたれない力」が実生活の様々な場面で発揮されていることが確認された。 また、この事例の特徴は、単なる調査にとどまらず、10年後の再会を約束し、継続的にコンタクトを取り続けた点にある。年に1回の調査やSNSを通じた情報発信が、参加者にとって当時の体験を振り返る(リフレクション)機会となり、記憶の風化を防ぎ、自己肯定感を再確認する装置として機能した。令和4(2022)年には「再会プロジェクト」が実現し、かつての参加者が再び集い100kmウォークを完歩した。 このように、強烈な原体験と、それを想起させる継続的な関わり(フォローアップ)の組み合わせが、長期にわたり「未来を拓く力」を育み、強化し続ける要因となると結論付けられる。 |
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| (参考文献) ・鈴木昭博「未来を拓く力を育てる長期自然体験学習の評価のあり方」『令和4年度 第46回研究論文集』茨城県教育弘済会、2022年 ・中央教育審議会「今後の青少年の体験活動の推進について(答申)」2013年1月 |
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