生涯学習研究e事典
 
登録/更新年月日:2025年9月3日
 
 

教養・健康・夢を育む生涯学習の推進 〜西郷単位制総合大学の実践から〜(きょうよう・けんこう・ゆめをはぐくむしょうがいがくしゅうのすいしん〜にしごうたんいせいそうごうだいがくのじっせんから〜)

キーワード : 生涯学習の推進 、高齢者の生きがいづくり 、西郷単位制総合大学 、公民館事業 、教養・健康・夢
渡邉康一(わたなべこういち)
 
 
 
  1.西郷単位制総合大学のねらいとシステム
(1) 西郷単位制総合大学のねらい
  村民が各種学習活動にかかわり、学ぶ意欲、学ぶ楽しさを身につけることにより、教養、健康、夢などの生活満足度のさらなる向上を図ることを目的として、2009年(平成21年)4月に開設した。この大学のねらいは、生涯学習のそれぞれの学習を単位に換算し、学習者が種々の学習活動に「かかわって」、学ぶ意欲を高め、単位を取得し卒業することで「生きがい」となり、学んで良かったという「人づくり」をするためである。大学の教育目標は、「教養」「健康」「夢」で、単位修得の中で目標達成に向け、学生が主体的に学んでいる。入学資格は、18歳以上の村内居住者で、他市町村は選考の上、聴講生として認めている。
(2) 西郷単位制総合大学のシステム
  修業年限は、短大は2年間で54単位で卒業後は生涯准学士、大学は4年間で110単位で生涯学士、大学院は2年間で35単位以上で卒業後は生涯修士に認定される。令和7年度の学生数は、短大生13名、大学生13名、大学院生4名、聴講生15名である。
(3) 履修科目
 必修科目は、年間10講座、うち1講座は村民公開講座として、広く村民にも参加を呼びかけている。また、西郷村のシンボルスポーツである「健康ウォーキング」は年間3単位まで、ボランティア活動も年間3単位までとなっている。選択科目は、「きらり学び講座」「村主催及び共催の行事」「村文化協会、村スポーツ協会における活動」「西の郷スポーツクラブ及び自主サークル活動」である。その他に、小中学校と同じように入学式、卒業式、卒業旅行、そして 卒業認定に向けた「卒業発表」がある。必修科目の「西郷単位制総合大学の講座」、選択科目の「きらり学び講座」は、前年度の2月に講座内容を決定し、回覧板などで村内に周知し、入学生を募集している。
・大学講座では、「トップリーダーに聞く」「卒業生の経験談」「バスで移動しての研修」など、様々な視点で学生の学びを応援している。 
 
 
 
  2.大学講座の実際
(1) 入学式
 令和7年度の入学式は、短大・大学・大学院で9名が入学し、小中学校と同じように厳粛な中で実施した。その後、第1回目の大学講座「村長講話」があり、村の現状や今後の行政の取組などを話した。
(2) 大学講座
 5月は、福島県文化財センター白河館「まほろん」での活動で、常設展や特別展の説明を受け、バックヤード見学をした。その後、埴輪マグネット作りと野外散策(昔の住居見学)を行った。6月は、「令和の学校教育」のテーマで、学校教育の概要と令和の時代の新たな学校教育について講義を聴き、その後、近くの小学校で授業の様子を参観した。8月は、「ベティ・ジェーンのお話」で、戦時中の様子や人形の由来についての話があった。8〜11月は明治安田生命の講座で、1回目は「今から取り組もう防災講座」、2回目は「健康づくり栄養講座」、3回目は「未来のための健康プロジェクト」を行い、大好評のベジチェック測定もあった。
(3) きらり学び講座
 学生と全村民対象講座である。座学が中心で、令和5年度は10回の講座で、「論語に学ぶ故事成語」というテーマで論語指導士の講座を年8回、「俳句講座」を年2回行った。また、村民公開講座の特別編として、「西郷村の歴史」について、学芸員の資格を持っている課長補佐が講師を務めた。
(4) 村民公開講座
 令和6年度の村民公開講座は、雅楽鑑賞と楽器体験を行った。演奏は鳳麟雅楽会の皆様で、今回の講座では、前半は雅楽の説明と演奏、後半は楽器紹介(龍笛・篳篥・笙)と演奏体験があった。約70名の参加者は、本物の鑑賞や体験により、心安らぐすばらしい時間を共有することができた。
(5) 卒業旅行
 この旅行は、県外の名所名跡を訪れ、学生の見聞を広げるものである。参加者は卒業生に限らず、希望する学生が参加できる。令和5年度は、「渋沢栄一を巡る」というテーマで、白河市の歴史研究家を講師に迎え、22名が参加した。
(6) 卒業発表会
 卒業発表は2月に行われ、卒業する大学と大学院の学生が、必修科目となっている。発表内容は、調査研究、経験をもとにした実践、演奏や絵画などの技能系など、多種多彩な内容である。
(7) 卒業式
 令和6年度の卒業生は、大学院5名、大学3名、短大2名の計10名だった。卒業式では、西郷村長をはじめご来賓の皆様のご臨席のもと、厳粛な雰囲気の中、心に残るすばらしい卒業式となった。学長(教育長)から、一人一人に卒業証書が授与され、式辞では、これまでの意欲的な学びの姿やすばらしい卒業発表に対して、称賛の言葉があった。
 
 
 
  3.持続可能な大学運営と今後の展望
(1) 持続可能な大学の運営
 学生には「単位管理ノート」があり、必修科目や選択科目について、履修するたびに学生が記入し、担当が確認の上、単位認定をする。学生は、夢をふくらませる卒業までの通帳として、大学講座のたびに提出している。また、持続可能な大学運営のため、検討委員会を設置している。メンバーは、社会教育委員長をはじめ、公運審委員長、県南教育事務所長、なすかし所長、村文化協会とスポーツ協会の会長、スポーツクラブ理事長、村校長会代表である。それぞれの立場で大学運営にご協力いただいているので、年間事業計画、卒業学生の報告など、質疑や意見をいただき、大学側とともに支援する体制を開学当初より構築している。広く村民に総合大学を周知し、大学の魅力を発信するために、新年度に2月に大学生募集のちらしを配布している。また、公民館だよりや村広報でも、情報発信をするとともに、文化センターロビーには、パンフレットや掲示物により、多くの利用者に大学の様子をご覧いただくようにしている。総合大学は、年々進化し、平成30年度には、同窓会が設立され、校歌・校章も制定された。
(2) 今後の展望
 成果としては、
1) 学生の学び意欲が高まり、学ぶ楽しさを実感している。
2) 卒業生が多方面にわたり、学習成果を各サークルや各種事業、ボランティアなどの地域貢献で発揮している。
3) 大学講座での交流により、学生同士の新たなネットワークが構築されてきた。
 課題としては、
1) 現代社会の課題や学生の要望を考慮し、魅力ある講座を検討していく。
2) 高齢者だけでは、社会から取り残されたり、孤立したりするので、他の世代との交流・連携を進めていく。
3) 今後も、持続可能な大学運営となるよう、地域や関係機関との連携をさらに強化していく。
 
 
 
 
   



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